Kabukicho,Shinjuku



新宿の記憶#1
1996年12月、おそらく僕が初めて新宿を歩いたのは、27年前の冬の頃だったと記憶してる。当時大学2年生だった僕は冬季休暇に初めて上京し、夜行バスの終着地である早朝の新宿に降り立ったのがその時だった。初めてみた新宿は冬の鈍い陽射しに照らされ、明け方まで遊んでいただろうふらふらと帰路につく人影が少し、それをホットコーヒーを啜りながらどこかの喫茶店から眺めていたのを今でも覚えている。1週間は東京にいたはずだったが、それ以外の記憶はすっかりと抜け落ちてしまった。
それから13年後の2009年、ふたたび仕事で上京。僕は代田橋に2年間住み、仕事帰りに新宿を撮って帰るのが日課になっていた。渋谷も六本木も池袋もひととおり夜の繁華街を撮り歩いてみたけど、結局、カメラを持って長居するのは新宿だった。
新宿の記憶#2
仕事終わりに新宿を撮影する日々は、代田橋に住んでいた2009年から2011年、渋谷に引っ越しした2014年までの約5年間続いた。2013年晩夏には、自家現像とデジタイズするだけだったネガを、市ヶ谷にあったレンタル暗室「カロタイプ」、白岡順先生の元でプリントもはじめる。約半年から1年程度と短い期間だったが、新宿で撮りためたネガを市ヶ谷でプリントするのがこの頃のルーチンになりつつあった。自分の写真について考える時間を持ち、それを真面目に話せたのは後にも先にも白岡先生だけだったように思う。「ハラ君の写真は変わった視点で面白いね。続けなさいよ。」と白岡先生に言われたことが、とても嬉しかったのを覚えている。僕の写真生活の中で一番充実した期間でもあった。
2014年夏、このまま撮影とプリントの生活が続くと思っていたが一変、結婚とWEBベンチャーへの転職が重なり、新宿にも市ヶ谷にも出向く機会は次第に失われ、写真からも自然と遠ざかってしまった。上京してから5年間の僕の写真と新宿徘徊の生活はあっけなく幕を閉じた。後に2016年春に白岡先生が亡くなった事を知る。